マタニティハラスメント訴訟から考える労務リスクマネジメント
私も会員になっている「NPO法人労働者を守る会」からも傍聴に行っていた様ですが、昨日最高裁で「マタニティハラスメント」に関する異例の上告審弁論が行われました。
広島市の病院に勤務していた理学療法士の女性が、病院を運営する広島中央保健生活協同組合に賠償を求めた訴訟で、女性側は「降格はマタニティハラスメントに当たる」と主張、病院側は「人事上の裁量の範囲内」と反論して結審。判決は10月23日に申し渡されることになっています。
判決が出れば、私の労働問題解決ブログの方でも取り上げたいと思いますが、最高裁では異例の「弁論」が行われたことから、原告請求棄却の1、2審判断を変更するものと予想されています。私もこのケース(と言っても傍聴していないので新聞記事ベースですが)なら、原告の逆転勝訴が妥当なところだろうと思います。
新聞記事からなので詳細はわかりませんが、原告(女性側)が男女雇用機会均等法の不利益取扱いにふれると違法を主張する一方、被告(病院側)は、①女性が妊娠後負担の軽い部署への配置転換を求めそれに応じたが、②その移動先に副主任のポストがなかった、③そのため降格について本人の同意を得ていたと反論した様です。
1審の広島地裁は「副主任を免じたことには女性の同意を得ていた」と原告請求を棄却し、2審の広島高裁もこれを支持してここに至っているわけですが、被告の対応として①は良いとして、②、③がリスクマネジメントとしてはいただけません。
②については、少なくとも新たなポストを設けることまでは現実的でないにしろ、出産までのわずかな間であれば、処遇を維持する等の方向で検討・話し合いをするべきであったろうと思います。また③に関しては、日本の労使関係における使用者側と労働者側の力関係から言って、少なくとも「合意書」を取り交わしていない状態で、「同意を得ていた」と「推認」する方が無理筋というものでしょう。1、2審の裁判官の労働問題に関するとらえ方が、かなり現実世界とずれていると思われます。
リスクマネジメント上は、可能であれば②を処遇維持の形にして、③で「合意書」を交わしていれば、使用者側のリスクはほぼゼロだったろうと思います。事の良し悪しは別にして言えば、テクニック上は③の「合意書」取り交わしだけでも、ここまで縺れることはなかったはず。合意書を交わす前には当然話し合いがもたれるわけですから。使用者側の顧問社労士をしているのを想像すれば、そう思います。
労働法に通じている弁護士であれ、社労士であれ、一つ一つ労務管理のアクションまで社外から把握できるわけではありません。大切なのは、何事か起きた際に対応できるレベルの専門家と繋がっていること、そしていつでも確認・相談できるリレーションを築いていること。労務リスクマネジメントの決め手は結局それしかないのかもしれません。
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