“ミスター牛丼”吉野家・安部社長退任の辞とサービス業再生の労使関係。
“ミスター牛丼”吉野家の安部社長は、現代の優れた経営者お一人だと以前から尊敬していました。その安部社長が退任されるに際して、フジサンケイビジネスアイのインタビューに応えておられます。
安部氏は、まず人口減少社会における外食産業の単価アップ、従業員の報酬アップの必要性を説かれています。当たり前と言えば当たり前ながら、完全にデフレ脱却をしたわけではない現状で、これを明確に口にする外食産業大手のトップマネジメントはそう多くはありません。牛丼の様に価格競争の激しい分野に軸足を置く業態では尚のことそうです。しかし経営再建、BSE問題というピンチを克服してきた稀代の外食・サービス業経営の鬼才は、まずそれを前提に掲げる。そして、人事労務に関しても鋭い分析と正論を展開します。
デフレ脱却に今しばらく時間がかかると見ながら、「高齢化」「女性の更なる社会進出」に成長のチャンスを見出し、分単位で時給計算してサービス残業を排除してきた吉野家の労務管理の伝統を踏まえながら、「雇用者と労働者は一体であり、そこをごまかして利益水準を上げる事業モデルはいずれ淘汰されるのが必至」との見方を改めて強調しておられます。
ピンチを克服するDNA、そうした企業文化を背景にして、厳しい時代にも解があると考え、動き、背中でそれを信じさせるリーダーシップ、そしてそれを信じることのできるフォロワーシップ。これさえあれば、必ず中長期的な成長・発展がある。これは外食にとどまらないサービス業の鉄則です。
大きいか小さいかは別にして「幸福」を売り買いするのがサービス業の本質であるならば、幸せそうに見えない売手から買いたいという顧客は少ない。その本質に立ち戻った労使関係からしか、サービス業の再生はありません。
「残業代を払ったら会社がつぶれる」などといって社員を恫喝するトップマネジメントに、サービス企業を経営する資格はありません。それは「倫理」ではなく「論理」の問題であることを、安部氏のインタビューは教えてくれます。
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