成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

「労働時間管理」が変わる2016年4月以降の勝ち組は?成果主義追求なら「金銭解雇」を推すべきだった!

f:id:obanasr:20140520100123p:plain

管理監督者」以外で労働時間・休憩・休日の規定が適用除外になる労働者を対象にする「新労働時間制度」が産業競争力会議で議論されてきましたが、一昨日の6月11日に概ね方向性が定まった様です。菅官房長官、甘利経済再生担当大臣、田村厚生労働大臣らが会談し、対象を「年収が少なくとも1000万円以上」あり、「仕事の範囲が明確で、高い職業能力を持つ労働者」とすることで一致。今月下旬閣議決定する新たな成長戦略に内容を盛り込み、対象となる職種や対象となる人の年収の下限など、制度の詳細は労働組合の代表らも参加する厚生労働省労働政策審議会で検討していくことを確認した様です。大枠は労働側を排除して決めて、「細かい事はやっといてよ。オタクらプロなんだからさ」という感じでしょうか。まあ、それでも決まったんだから仕方ありませんね。それより、「ブラック労務の温床」ともいうべき「裁量労働制の拡大」はいったいどうなったんでしょう?沙汰止みになったのなら良いのですが…。

 

これに先立って現行労働基準法で「中小企業」を当面の間適用除外としてきた「月間60時間を超える時間外労働」の「割増賃金率50%以上」を中小企業にも適用する方向で議論がなされていて、「新労働時間制度」と同様、来年の通常国会で法改正、2016年4月から施行という流れになりそうです。

 

中小企業の60時間超残業の50%以上割増については、以前にも記事を書きました。その対策としては、少なくとも①朝型ワークスタイル、②システム活用によるコミュニケーション改善、③①や②ともリンクするコンピテンシーベースの人事評価制度の導入で、「月60時間以内の残業」でも業績を上げていける効率的な組織にすることだろうと思います。

 

問題は「新労働時間制度」を実際にどう使っていくかです。

 

詳細はこれから決まるので綱引きが展開されるのでしょうが、「年収が少なくとも1000万円以上」あり「仕事の範囲が明確で、高い職業能力を持つ労働者」という定義だと、厚労省サイドが当初イメージしていた、ディーラー、先端技術研究者、戦略コンサルみたいな専門職だけに留まらない、広範な職種の労働者が対象になりそうです。年収基準はあるものの、営業担当取締役以外の営業マンで年収1000万円以上の人、事業会社の財務部長や人事部長以外で年収1000万円以上の管理部門の人は、成果報酬を払えば際限なく働かせて良いということになりかねません。まあ、年収1000万円以上が全給与所得者の4%弱というデータもありますから、このうち役員や管理監督者除いた場合、割合としてはせいぜい1~2%の労働者が対象なのですが、だからと言って余程の防止策を併せて講じないと、過剰な長時間労働による健康障害や精神障害を患う人や過労死者が、数千人単位で出る可能性だってあります。

 

そう考えると安易に「新労働時間制度」を導入することは、どう考えても中長期的に多くの企業のプラスになるとは考えられません。財界人の頭の中には、労働災害安全配慮義務違反に基づく高額の損害賠償などは全くコストとして計算されていないでしょう。じっくり考えれば、結局2016年4月以降も、業務プロセスの効率化や人事評価方法などには工夫を凝らすものの、労働時間管理自体は大きく変えない企業が一番得、勝ち組になるとも考えられます。

 

本気で成果に応じた報酬を支払うシステムへの移行を財界が目指し、利益追求を考えるなら、下手に「労働時間管理」に手を突っ込むより、議論の分かれるところであって、抵抗が大きい可能性があるものの、「金銭解雇」の法制化を粘り強く進めるべきだっただろうと思います。

 

要するに総額人件費に対するパフォーマンスの問題なのですから、「金銭解雇」なら、全ての労働者を対象にすることは無理でも、一定の就業期間を経過した少なくとも何割かというかなり広範な労働者を対象とすることも可能だったはずです。同時に殆どの企業にとって「負け戦」となる解雇トラブルを減らすこともでき、労働者側にとっても解雇をめぐる不毛な紛争や泣き寝入りが少なくなるメリットもあるわけですから、濫用防止策に配慮すれば、これからでも検討に値する施策だと思うのですが…。

 

いつもお読みいただきありがとうございます。

たくさんの方に読んで頂きたいので、

 ↓ のクリックをお願いします。

にほんブログ村 士業ブログ 社会保険労務士(社労士)へ

にほんブログ村

f:id:obanasr:20140517140943p:plain