中小・ベンチャーもついに残業代50%割増!「儲かり続ける」ための「働き方革命」とは?
先日の日経新聞に出ていましたが、中小企業への適用が見送られてきた「月間60時間を超える時間外労働」についての割増賃金率引き上げが、2016年4月から適用になる方向で政府が本格検討に入った様です。実施されれば、「月間60時間を超える時間外労働」について、中小企業も大企業同様、現行の25%から50%以上の割増賃金を払わなければなりません。今日はこの件について。
社会保険労務士会では昨年から、「消費税引き上げにタイミングを合わせて、ひょっとすると2014年4月から適用もあるのでは」と言われていましたので、我々としては「2年も先送りか」という印象ですが、労働集約型の企業を中心に、企業経営の視点では大変インパクトの大きい問題です。業種によっては死活問題ですし、そこまででなくても、「儲かり続ける」ためには「働き方」の工夫が必要になってきます。
議論の出発点として、念のため根拠法令である現行の労働基準法の条文を見ておきましょう。
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
第百三十八条 中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。
元々これらの条文は、2010年4月施行の労働基準法改正で作られた条文で、「当分の間」というのは「3年を目途に」と言われていました。昨年は見送られましたが、今春は消費増税もありましたから、デフレ対策上も早ければ2014年中、遅くとも2015年春には適用かと思われたのですが、2016年4月からで決着しそうです。
注意点は繰り返しになりますが、「一箇月について六十時間を超えた場合」であることで、残業の多い中小企業やベンチャー企業が、「月60時間以内の残業で収まる働き方」をどう準備していくかというのが、今後の大きなテーマになりそうです。その意味で2年間は準備期間として決して長くはないのかもしれません。
そしてこの法改正を逆に「儲かり続ける」ための「好機」ととらえ、「働き方革命」(経営者視点では「働いてもらい方革命」)にしようではないかというのが、今回の私からのご提案です。
その提案のヒントの一つが、実際に伊藤忠が制度化して効果を上げている「朝型勤務制度」。所定勤務時間帯(9:00~17:15)での勤務を基本とし、適法に早朝出勤分の割増賃金を支払って、軽食の早朝無料配布も行うことで朝型ワークスタイルを定着させようとした試みです。これにより8時以前の出社割合が20%から34%に増加。その一方20時以降の退社が30%から7%、22時以降の退社がほぼゼロとなり、結果として早朝出勤や軽食のコストを勘案しても残業代で5%、電気料金で6%の削減ができたという実例です。別に伊藤忠でしかできない様なことをやっているわけではありません。これこそ覚悟とやる気さえあれば、中小・ベンチャーでもできることに他ならないと思います。
また、グループウェアやCRM・SFA(Sales Force Automation)もクラウドコンピューティングおよびスマホの普及でローコスト化が進んでいますから、この際これを徹底活用して無駄な会議や無駄な社内電話を削減しない手はありません。かなりの「時間をうかせる」ことができるはずです。
そしてこうしたワークスタイルや効率化を起動させるためには、大前提としてそれらを評価する仕組みが欠かせません。経営者以下管理職全体が「長時間労働を情意評価」することから脱却するのが何よりも重要で、できれば「髙業績を上げるための行動や役割」を軸として評価する仕組みづくりにまで進みたいところです。そうでなければ「働き方革命(働いてもらい方革命)」はなかなか起こせません。
要約すると、少なくとも①朝型ワークスタイル、②システム活用によるコミュニケーション改善、③①や②ともリンクするコンピテンシーベースの人事評価制度が、「月60時間以内の残業」でも業績を上げていける組織にするための鍵になるだろうと考えています。
もちろん具体的な展開には、各社毎の内部環境、外部環境を踏まえたカスタマイズが必要なんですが…。