成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

Wの悲劇。ベンチャーの雄はどこで間違え、どこに行くのか?

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かつてのベンチャーの雄、ワタミが「ヒト」で苦しんでいます。今回はそのケーススタディを。

 

2014年3月の連結決算は税引後損失49億円。営業損益での対前年▲29億円に、閉店する店舗の特別損失▲26億円が加わって1996年の上場以来初の赤字。この4月にワタミに入社した新卒社員は120人で採用目標の半分にしか達せず、長時間労働の問題が指摘されている背景もあり、2014年度中に60店舗を閉鎖。従業員を他店に振り分けて1店舗当たりの従業員を増やすとともに、会議の時間も年間250時間から80時間に削減、アルバイトからの登用などで転勤がない「地域限定社員」を6月以降100人確保するとのことですが、まだまだ出口の見えない迷走が続いている様です。

 

そもそもサービス、流通などで「人手不足」が顕在化しているのに加え、ワタミの場合は広く「ブラック企業問題」が議論される契機になった2008年新入社員の過労性精神疾患に起因した自殺(労災認定済み)について、安全配慮義務違反が問われ、懲罰的損害賠償額を含んだ約1.5億円の損害賠償等を遺族側が求めて、現在係争中であるのがダブルパンチとなっています。

 

この問題を大きくしてしまった背景には、昨年12月に遺族側が提訴に至るまで、いくらでも和解の機会があったにもかかわらず、安全配慮義務違反を一切認めなかったワタミ側の強気すぎる姿勢があると思います。

 

創業者の国政選挙への立候補・当選というのも背景にあったのかもしれませんが、大きな間違いは、採用等の労働紛争の余波をあまく見ていたのではないか、そして上場企業でありながらオーナーシップ過剰な創業者や経営陣に、使用者側に厳しい結果が多い労働紛争のリスクとそれを続けることの不毛さを諫言できる人材も仕組みなかった、つまりはコーポレートガバナンスが効いていなかったのではないかと考えられることの、二つに集約されるのではないかと思います。

 

去年の春頃この労災認定された過労自殺の件を新聞で読んだ際、まず私の頭には、「ワタミさんは来年以降しばらくの間の新卒採用で塗炭の苦しみを味わうであろう」ということが過りました。その後新卒採用に関わる人事マンと話すような機会があると、「労働集約型の企業は、何があってもワタミさんの様な対応をしてはいけない。下手をすると会社存亡の危機になる」と話題にしていた程です。別に私でなくとも、多少とも新卒採用の機微を理解している人なら容易に想像のついた話です。「新卒採用ブランドは創るのには何年もかかるが、壊すのは一瞬」と、もちろんワタミの中にもそう思った人がいないことはない筈です。しかし、事態は改善に向かわなかった。これは偏にコーポレートガバナンスが効いていなかったことによるであろうと想像します。

 

どんな組織もある程度の規模に達すれば、「フェイル・セーフ」を組み込んでおかなければならない。まして上場企業なら当然のことです。創業者の趣味嗜好で株価が変動するなんてことがあって良いはずがないわけですから。それのできない経営者なら上場を考えるどころか、ある規模以上に会社を大きくしてはいけない。既に身の程にあっていない位大きくなっているなら、「ダウンサイジング」さえ考えた方が良いかも知れません。

 

今後ワタミさんがどういう道を選択されるのかは予想がつきませんが、居酒屋以外の宅食も介護事業も、労働集約型の事業ドメインであることに変わりはないわけです。もし私が管理部門の責任者なら、やや遅きに失した感はありますが、過去の安全配慮義務違反を即時に認めて和解し、同時に根本治癒的な「ワークスタイル」と経営陣を刷新した新たな「ガバナンス」を、可能な限り発信力を高めてプレス発表するという事をやるかもしれません。きちっと取材してもらえるならあらゆるメディアに出て行って話すべきでしょう。それくらいインパクトの強いことやらないとこのピンチは乗り切れない。「ヒト」起因のリスクが、企業経営にとって如何に怖いものであるかと思い知らせてくれる典型的なケースであると思います。

 

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