成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

オーナー経営者のための組織人事管理① 「ファミリービジネスか?ゴーイング・パブリックか?」

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私は株式公開準備を視野に入れた企業で、何度か管理部門の責任者として仕事をしました。ですから、オーナー経営者が「IPO(株式公開)したい」と突然言い出したら、それが十中八九は証券会社の法人営業の人間等に耳触りのよい話を聞かされて、舞い上がっているに過ぎないと分かるわけですが、普通の会社、普通の経営者はそうは思いません。

 

取引銀行や経営者団体の紹介で、誰しもが名前を知る大手証券会社の法人営業の名刺を持った人間がやってきて、「社長、株式公開をお考えになりませんか?」なんてモーションを掛けられれば、「俺って凄いんじゃね?」「ウチの会社って上場企業になれるくらい力があるのか?」と勘違いしてしまっても無理のないところです。しかし証券会社の法人営業の人間なんていうのは、そもそもそういう勘違いを経営者に起こさせるのが仕事なので、オーナー経営者は、いくら業績好調でも、こういう言葉に振り回されて、経営の舵取りを誤ることのない様、注意する必要があります。

 

もちろん、事業展開上、あるいはファイナンス上、株式公開を目指す(「ゴーイング・パブリック」と言います)方が良い、又はそれが数少ない選択肢の一つというケースもあります。しかし好業績で注目されている企業でも、そうした必然性の無い企業の方がむしろマジョリティなのです。

 

前置きが長くなりましたが、現在、私は特定社会保険労務士をしていますから、主に組織人事面からこの問題に触れるのが本稿の目的です。

 

サントリーみたいな特殊な例を除けば、オーナー家がほぼ100%の株式を保有する純然たるファミリービジネスは、本質的に組織人事面で大きな弱点を抱えています。スポットの中途採用は兎も角、将来を担う人材を広く社会に求め、持続的に採用するということが大変難しいという点です。

 

単純な話、役員やワンポイントリリーフはあっても、トップマネジメントに立つ可能性がほぼゼロの企業に入社することを、大望ある有為の若者ならば良しとはしないでしょう。

 

それに対して、株式公開企業であれば、トップマネジメントに登りつめるには、実力以外の運不運もありますが、少なくとも既述の様なバイアスはかからないわけです。広く世の中に人材を求めるのであれば、すでにパブリック・カンパニーであるか、直ぐにでなくとも将来的に上場を目指すゴーイング・パブリックの企業の方が、優位であるのは間違いありません。

 

これは組織人事面での大きなポイントです。しかし、この点を除くと、実はファミリービジネスにも組織人事管理の大きなアドバンテージがあります。

 

株式公開企業の最強のステークホルダーは当たり前ですが株主です。株主の多くは企業に短期的な利益の極大化を求めます。かつてのハゲタカを持ち出すまでもなく、アジアの片隅の巨大とは言えない企業であっても、上場していれば資本の論理が最優先。その結果、中長期的な視点での事業戦略やそれに沿った組織づくり、人材育成も阻害される可能性があるわけです。しかし、ファミリービジネスにはそういう心配が全くありません。

 

また、ユニクロなどを傘下に持つファーストリテイリングの様に、世の中には上場企業でありながら創業家関連株主で50%程度の株式を保有する、ファミリービジネスとパブリック・カンパニーの折衷形の様な企業もあります。これはこれで問題がないわけではありませんが、上手くやれば双方のメリットを引き出せる可能性があります(逆に下手なマネジメントをやるとマイナス面ばかりが残りますが…)。

 

経営スタイル、創業家を中心とする後継経営体制、経営環境変化への適応力、組織力・人材力の経営資源に占めるウェイト…。殆どは組織人事と切っても切れない事項ですが、企業規模が大きくなればなるほど、オーナー経営者は、これらのバランスの上に、自社をファミリービジネスとして存続させるのか、ゴーイング・パブリックへ導くのかという選択を、慎重にしていくことになります。あまり自覚している経営者は多くありませんが、「株式会社」というのはそもそも、会社法を読めばわかる様に、株式公開する方がむしろ自然な法人形態です。

 

ただ、だからこそ「業績が好調だから」とか、「一度は上場企業を経営してみたかった」という様な理由で、安易に証券会社の口車に乗せられると、後で取り返しのつかないことにもなりかねません。

 

組織は、アクセルを急に踏み込むと思わぬコンフリクトを招きますし、逆に急ブレーキを踏んでも、直ぐには基には戻らないものです。これは成功しているオーナー経営者には特に留意して頂きたい組織人事管理の要諦です。

 

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