成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

サントリーのパワハラ訴訟から考える企業防衛法。決め手は「予防」と新しい「賠責保険」。

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サントリーホールディングスの男性社員が上司からパワハラを受けて休職を余儀なくされ、同社と上司らに2400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が昨日7月31日東京地裁であった様です。裁判長はパワハラを認め、同社と上司に297万円の支払を命じました。サントリー側は控訴も検討するとのことです。

 

さてこのケースの分析です。

 

サントリー側としては、パワハラが裁判所に認められてしまっては、企業の社会的信用等にかかわりますから、当然控訴して争うでしょうが、中小企業と違って、金額的には正直痛くも痒くもないというところでしょう。但し注意が必要なのは、これがまだ「休職」というところで争っているからこの程度で済んでいるという点です。過去の判例でも、こうしたケースで最終的に「解雇」に至った様なケースでは、会社側が一通りの職場復帰プログラムを実施していても、働けなかった期間の賃金報酬の大半、慰謝料、治療費その他の請求を認めて、期間にもよりますが、数千万円の賠償が命じられているものがあります。サントリーならそれでも金額的には問題ないでしょうが、中堅以下の企業ならそのダメージは小さくありません。

 

では訴えた労働者側からみてどうか。これは正直、心情的には兎も角、賠償請求の結果認められた金額と今後のことだけを秤にかければ、あまり得策とは言えなかったのではないか。結果論ですが、そう思います。この労働者側からの分析は、近々私の労働問題解決ブログ『“労働者側社労士”がゆく』の方で書きますので、ここでは割愛させてもらいます。 

 

さてこの判例から、一般的に企業はどう自社を守るべきかを考えたいと思います。

 

この裁判の争点でもありますが、パワハラの厄介ないところは、どこまでの「注意」「指導」ならOKで、どこからが「パワハラ」なのか、当たり前ですが判然としない点です。そしてこれはADRであれ、労働審判であれ、本訴であれ、労働者側が申し立てるなり訴えるなりして顕在化するものですから、「組織風土」「労使関係」次第ということにもなります。もっと遡れば、「採用」のあり方さえも関わってくるわけです。

 

ですから労務管理上の「予防」として、少なくとも「採用における予防」と「労使関係構築上の予防」の二つを考えておく必要があると思います。

 

前者としては、採用時のミスマッチを減らすべく、「ライン部門の社員を含んだ可能な限りの面談機会の設定」⇒「インターンシップや入社前研修の拡充」⇒「内定者バイト等を通じた組織風土理解」などのプログラムをセットすることがそれにあたるでしょう。これらは単に労務リスクマネジメントというだけでなく、人材のポテンシャルを最大限引き出すことにもつながりますから、そのコストパフォーマンスは決して悪くありません。

 

後者の「労使関係構築上の予防」というのは、できるだけ不満や悩みを吐き出せる場所とか人を作っておくということでしょう。昔であればそれが「同期」であったり「心許せる先輩」であったりしたのでしょうけど、そういう個人的なつながりでカバーできなくなっているのが現代の組織なのだと思います。ですから労働組合があるなら、組合費の範囲で労働者を支援できる社労士や産業カウンセラー臨床心理士と契約するというのもありでしょうし、組合がないなら、従業員有志で費用を出し合い「親睦会」の様なものを作って、そこからそうした独立性のある専門家に相談できる 体制を作る様にしておくのも一つのアイデアだと思います。

 

それでもやはり「予防」には限界があります。ですから企業のリスクマネジメントという点からは、一定規模以上の企業や労働トラブル発生の頻度の高い業種・業態の企業であれば、「雇用慣行賠責保険」や「会社役員賠責保険」という新しいタイプの賠責保険に入っておくことをお奨めしています。企業だけでなくハードワークが問題視される医療現場でもこれら賠責保険は有効かもしれません。

 

実はこの春にも某損害保険会社さんの神戸支店で、2度ほどこれら保険にかかわるセミナーの講師をさせて頂いたことがあります。 

 

損保毎に内容は異なるものの、セクハラ、不当解雇、昇進降格に関してもカバーし、裁判費用や、中には職場環境改善の社労士等への依頼に要した費用を補償する保険もありますから、保険料とのバランスの中で、自社に適したタイプの保険への加入を検討するというのは、該当企業では経営上の検討に値すると思います。

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