成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』は人事マン・社労士必読の書。

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新卒採用、就活問題を論じる上で非常に参考になるバイブルともいうべき書籍として、以前のブログでも独立行政法人労働政策研究・研修機構の主席統括研究員である濱口桂一郎氏の

を紹介しました。その濱口氏が既に5年前に書かれている本ですが、近年の労働問題や昨今の労働をめぐる様々な規制緩和を理解し、人事マンや社会保険労務士が自らの関わる人事労務管理について今後の見通しを立て、対処を考えていく上で有益と思われる文献が、

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

 

です。

 

人事マンや社労士であれば、人事管理、人事労務管理、人的資源管理、人材マネジメントといった書名の基本書を読まれている方は少なくないでしょう。それらの中にはもちろん良書もありますが、概ねどの書籍も、中身は人事労務管理(人的資源管理)という経営管理の一部についてのカタログに留まっています。ですから「なぜそういう管理が必要になってきたのか。そしてこれからそれはどうなっていくのか」「その管理は日本以外ではどうなっているのか」については殆ど何も書かれていません。

 

例えば日本型雇用システムの三大特徴は、長く終身(長期)雇用制度、年功賃金(序列)制度、企業別労働組合であり、徐々に崩れつつはあっても、現段階では本質的にオルタナティブとなる雇用管理、報酬管理、労使関係管理の仕組みがあるわけではありません。これらの背景に何があるかということについての説得力ある説明は、人事労務管理(人的資源管理)の概論(総論)的文献では取り扱われてこなかったものです。一読してもらった方が早いのですが、『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』(以下「本書」)では、この終身(長期)雇用制度、年功賃金(序列)制度、企業別労働組合は、その前提である「日本独自の雇用契約」の論理的帰結であると述べられています。

 

日本の雇用契約においても契約締結に際して、「従事する業務」は明示することになっています(新卒者は「内定」によって解約権留保付労働契約の当事者になると考えられますが、契約成立時には「配属」「職務」も明確でなく、入社日以降にそれらが明示されます)。しかしその契約は、諸外国の様に特定の「職務」を明確に定め、その範囲内の労働についてのみ、労働者は義務を負い、使用者は権利を持って、原則その「職務」がなくなれば雇用契約が解約されるというものではありません。アメリカを除き、日本以外の国でも解雇権はある程度制限されますが、それでも日本以外の国では「職務」がなくなることは「正当な解雇理由」になるというのが一般常識であるわけです(良し悪しは別にして)。

 

濱口氏の言葉で言えば、「日本の独自の雇用契約」は「職務契約」でなく「職務が限定されないメンバーシップ契約」であり、それ故配置転換、人事異動もあるし、人材育成も企業が行うものになります。解雇のハードルも自ずと高くなり、終身(長期)雇用制度となるし、職務に紐づいた報酬を設定すると職務毎の報酬の格差から人事異動もできなくなるので、結果的に年功賃金にならざるを得ない。その一方でそうなると今度は、高齢者の賃金が際限なく高くなってしまうので、定年退職制度が設けられるというわけです。また、新卒一括採用ができるのも、企業側のメリットとしてそれが効率的に機能しているからですが、論理的には「メンバーシップ契約」であるからで、もし日本の雇用契約が「職務契約」であれば、「職務」も決まっていない若年労働者を一括採用するというのは考えられず、諸外国同様、日本も欠員補充でしか新卒者が採用されなくなることになります。

 

人事マンや社労士は日頃こうした背景を常に意識して人事労務管理に携わっているわけではありません。しかし、採用のあり様や人事制度の改変を考える際、企業のニーズ&ウォンツ以外に、こうした部分に思いを巡らす作業がないと、論理矛盾がおこり、整合性が失われて、取り返しのつかないミスや失敗をひき起こしかねません。

 

これ以外にも本書にはとても多くの示唆があります。人事マン・社労士必読の名著であると言って良いと思います。

 

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