成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

「賃金報酬制度」の改定。その時経営者が気を付けるべきこととは?

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経営革新に「人事制度」の改定はつきものです。そして私自身もかつて自らが管理部門の責任者を務めながら、その効用を実感したことがあります。

 

株式公開とか、外部環境変化に適応するための事業再構築とか、経営目標(最終目標でなくマイルストーンであっても)を定め、その実現を目指すと、組織をそれまでと違ったものにしなければならなくなります。そしてそのためには、役員・従業員のマインドセットを変えなければならない。それにはまず、「人事評価」のあり方にメスをいれなければなりません。

 

「人事制度」の改定というと、多くの人が「賃金報酬制度」の変更をイメージします。しかし、経営革新を実現するための組織変革は、むしろ自分で設定した課題を達成しようと自発的に思考し行動する自律性、問題解決によって得られる有能感といった「内発的動機づけ」に効く「人事評価制度」による部分が大きいと思います。「好きこそものの上手なれ」の喩えもあるように、「内発的動機づけ」に支えられた行動は持続性が高い。より挑戦的な課題を設定することで、さらに高いハードルをクリアしていくという発展性をも「人事評価制度」は内包しています。

 

賃金報酬の様な賞罰等によってもたらされる「外発的動機づけ」は「内発的動機づけ」と両立するもので、それが自己の価値観や人生目標と一致している場合は、「内発的動機づけ」とほぼ同様の効果があるといわれます。より多くの報酬を得ることが価値観や人生目標の一番であるかどうかは兎も角、通常プライオリティの高いものであれば(多くの人は勿論そうですが)、「人事評価制度」の設計とともに、それと一定の関係性、整合性を持たせて「賃金報酬制度」 を改定していくことには、大きなインパクトがあります。

 

「人事評価制度」「賃金報酬制度」の中身については今後も折に触れて取り上げますので本稿では深入りしません。ここで留意したいのは、この「賃金報酬制度」の改定を行う場合、それが「就業規則」又はそれと一体をなす「賃金規程」の変更を伴うという点です。

 

就業規則」に書くか、別途「賃金規程」にまとめるかは企業によって違いますが、「賃金報酬制度」を変えれば、それら規則・規程を変更する必要が出てきます。その際、使用者が一方的に労働者に不利益な変更を行うことを、労働法は原則許していません。但し、変更に合理性が認められれば、反対労働者をも拘束するという方向で判例法理は形成され、現在では労働契約法がそれを規定しています。

 

労働契約法においては、8条で「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と規定し、変更についても「労働契約の合意原則」を踏襲。9条では「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定して、就業規則(以下賃金規程等も含む)の変更による労働契約の変更にも原則合意が必要であるとしています。

 

これをもって、当然に就業規則の変更を伴う「賃金報酬制度」の改定には、「労働者全員の同意」が必要であると主張する人もいますが、これはあくまで原則であって、労働契約法は10条において、就業規則の変更が合理的なものであるときはこの限りでない、すなわち労働者個々の同意がなくても、非同意者も含めて変更された就業規則の適用を拒否することはできないとしているわけです。もちろん、そのためには「合理性」の判断基準があり、総合判断がなされます。

 

①「変更の内容」(「労働者の受ける不利益の程度」「変更後の就業規則の内容の相当性」)

②「労働条件の変更の必要性」

③「労働組合等との交渉の状況」

④「その他の就業規則の変更に関わる事情(我が国社会における一般的状況等)」

の4つから「合理性」を総合判断することになり、そこには具体的な実施プロセス・手続き、例えば新たな賃金報酬制度導入による「不利益変更の代償措置」、新制度の「周知徹底」、新制度に基づく変更後就業規則の「労働者の意見聴取の上での届出」も影響を与えます。

 

個別企業の事情によって進め方は異なりますが、労働者全員との合意がなくても「賃金報酬制度」の改定は可能であり、経営目標実現のパラメータとして大きなインパクトをもちます。しかしそのためには慎重かつ着実な導入活動が求められ、制度を作るのと同様のエネルギーを要するということは、使用者側にいる者は須らく記憶にとどめておくべきだと思います。

 

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