成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

「労働119番」を始める理由。「引き裂かれてある士業」社労士にしかできないこと。

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5月1日から労働者側社労士業務の「労働119番」を始めました。今日はその理由を少し書きたいと思います。

 

開業社会保険労務士の仕事は、95%以上企業向けのサービス提供で成立しています。障害年金の裁定請求とか、個人向けサービスを中心に活動している社労士は100人に5人もいないのではないでしょうか。私も顧問業務であれスポット業務であれ、企業・法人相手の仕事のみをしてきましたし、これからも企業向けサービスのウエイトが50%以下になることはないでしょう。

 

ですから社会保険労務士という仕事をする限りは、「人材マネジメントに優れた企業」が一つでも増えて欲しいしわけですし、グローバリズム少子高齢化が同時進行するという稀な環境変化の時代にあって、そこを蔑ろにする企業が、一時的に甘い汁を吸うことはあっても、持続的成長を果たすというのは困難だと思っています(長くなるのでこの理路は別稿で)。

 

しかし実際には、昨年来の「ブラック企業問題」は鎮静化するどころか枯野を焼くが如く広がっていますし、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の焼き直し「残業代ゼロ法案」が出ればメディアが一斉に叩く。実際の労働問題の現場では、合同労組(ユニオン)など外部労働組合の活動が盛んになって、実態として個別労働紛争である様なケースでも、突然経営者に団体交渉の申し入れがあるという様な事態が日常化しています。ちなみに先日社労士会の支部研修でお話を伺った大阪の使用者側専門の弁護士さんは、年間50回以上、つまり週1回は合同労組(ユニオン)と団体交渉をやっているそうです。

 

また「ブラック企業の追及」を錦の御旗に掲げるNPO法人や、弱者救済を建前にして他業務から労働者側での労働トラブル介入(勝ち負けで言えば勝ち易い、すなわち商売になる)にシフトしてきた弁護士が、そうした「労使対立の構図」を後押ししているというのが昨今の状況でしょう。

 

そんな中で社会保険労務士が本来取り組んでいるのは、企業側での労働トラブル回避のための予防労務管理のサポートです(特定社会保険労務士の付記を受けての裁判外紛争解決手続きも第二義的にあるにはあるが…)。幸い弊所の顧問先は、リスクマネジメントの意識が高く問題ありませんが、一度火を噴くと数百万、下手をすれば数千万の損失も考えられる時代なのに、一般的には中小どころか中堅以上の会社でも、労働トラブル予防に熱心に取り組む企業は多くない。殆どの中小・中堅企業は相変わらず労基署に駆け込まれでもしない限り問題ない程度の認識でいるわけです。ところが労働紛争はここ10年で少なくとも2倍になっていますし、それは労基署の是正勧告対応でけで収まらない。事が起こってはじめて問題の大きさにびっくり仰天、慌てふためくという中小・中堅企業が大半なわけです。

 

つまりは社労士の主な「持ち場」で本来の役割が、まだなかなか「直球」では果たせていないわけです。それでも関与企業では労務リスク予防の必要性を粘り強く説くしかない。しかし、関与企業以外の労使関係では、社会保険労務士はフリーハンドであるし、労働者側で仕事をすることもできる。トンネルは両方から掘り進んで行った方が早く掘れるわけです。研究したところ、大阪や兵庫では「労働者側での社労士業務」に力を入れている社会保険労務士はまだまだ少ないですが、福岡や東京ではそこへシフトしている先生方も結構増えてきている。ただ労働者側に立つと言っても、労働者側の弁護士や合同労組(ユニオン)、「ブラック企業」糾弾のNPOなどと違ったアプローチ、ストレートに「対立の構図」を持ち込むのとは違った方法で労働問題の解決に取り組んでおられるということがわかりました。

 

労働問題は、性善説に立てば、少なくとも「組織目標の達成のために採用した使用者」 と「組織目標達成のために自らの人的資源の提供を約した労働者」の合意の上に成立した雇用関係に、「歪み」や「捻じれ」が生じて顕在化するわけです。もちろん中には不可逆的な事もあるでしょうけど、本来はその「歪み」や「捻じれ」を正すというのが一番の解決法であって、実際、問題が是正されれば継続して今まで通り働きたいという労働者が少なくないのも、労働問題の実相です。その意味では、明確な違法行為を取り除く以外は、「法律で白黒はっきりつける」という解決法が労働問題に関して必ずしも馴染むものではないと私は思っています。

 

そこで、これまでの私の管理本部長、管理部長時代の数多の経験とノウハウ・ドゥハウから、直ぐに着手できる「労働者自身の会社側との上手な交渉」「労働基準監督署の上手い活用」の2点の支援に絞って、「労働者側の社労士業務」を始めてみることにしたのが「労働119番」です。

 

ここまで書いて、我が書中の師・内田樹先生のブログで読んだ「リスクヘッジについて」という古い記事を思い出しました。これは内田先生が東日本大震災の直後に書かれたもので、リスクヘッジに関する論考です。今読み返しても私はこれ以上のリスクヘッジ論を過去に読んだことがありません。その一節にこんな文章ががあります。

 

「最適な戦略的選択をためらわない冷血さと同胞に対する制御できないほどの愛情という矛盾を同時に引き受け、それに引き裂かれてあることを常態とすること、それが『戦争できる人間』の条件である。その『引き裂かれてあること』を徹底的に身体化するというのが、『考える前に考える』ということである。別に魔術を使うわけではない。『情報』というはっきりした輪郭をとらないノイジーな入力を『シグナル』として解読できる力のことである。単純に言えば、『危険に対するセンサーの感度を上げる』ということである。」

 

ここに言う「戦争できる人間」とは、ビジネスに置き換えれば「リスクマネジメントを司る人間」という意味で、本来それは経営者のことを指します。しかし現実に労働問題、労務リスクマネジメントにまで手が回っている経営者は少ないわけですから、ある時は企業に寄り添ってある社会保険労務士が「予防」と言う形で、またある時は労働者側社労士として極力「対立」を避けて経営者に解読しやすい「危険信号」を労働者が発するのを助ける形でかかわっていく。こうした「労使関係の修復」「労使関係の再生」に重点をおいて取り組むアプローチは、ある意味「引き裂かれてあること」を常態とし受け入れることのできる社会保険労務士の立場でこそ採用できるものだと思います。そしてこうした労働者側での経験がまた、企業側での社労士業務にフィードバックして説得力を持つ。それこそが「労働119番」の真の狙いであるわけです。

 

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