成長企業の労使関係デザイン@特定社労士

リクルートグループに学び、ITベンチャー・急成長メーカー・創業100年商社で試した、大阪・梅田の実践派特定社労士が労使関係管理と人事労務管理の極意を伝授!「組織の成長」と「個人の幸福」の相互作用が未来を創る!!

新・「採用」と「研修」の経済学

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二流、三流の「人事コンサルタント」と称する人達のブログなどを読んでいると、

「採用と研修のどちらを大事にすべきかという様な質問をクライアントからされるのですが、この二つに優劣はありません。どちらも大切で車の両輪です」

という様な極めて温い考えの記事がよくアップされています。

 

どちらも大切なのは当たり前で誰にでもわかることです。しかし余程儲かっていて、余裕のある企業でなければ、人事部門への人的リソースの配分、外注を含めて人事労務管理にかけることのできる予算に鑑みて、双方をフルスロットルでやるなんてことは非現実的です。限られたリソースをどう振り向けるかという選択が、絶えず現実の問題としてついてまわるはずです。

 

勿論対象企業の事業ステージによりますが、このことに関する私の考えは明快です。

 

たとえ社歴が何十年あろうとも「商店経営」を脱して切れていなかった企業が第二創業ステージに入る場合や、スタートアップやアーリーを抜けて発展・拡大過程に突入したベンチャー企業の場合は、7:3か8:2、場合によっては9:1といった割合で、「採用」に重きを置いて、リソースを配分すべきだと思います。

 

殆どのサクセスストーリーでは「光」の部分しか取り上げられませんが、多くの組織変革やベンチャーの成功には必ず「影」の部分があります。その最たるものは、成功に向かうプロセスでの多くの既存人材や創業メンバーとの離別、酷い場合にはリストラといった事がごく当たり前に起こるということです。

 

つまり、成長途上の大望ある組織であればあるほど、変化前の人材を「研修」でレベルアップするという様なアクションは一見美しいけれど、あまりリアリティのない話だということです。会社が伸びれば伸びるほど、採れる人材のレベルは急激にアップしていきます。そこで精々必要なのは、既存人材や創業メンバーに、環境適合のための組織の変化についてこれるだけのモノの考え方や頭の切り替えを促したり、変化した後の組織で自分が活きる役割を探すための「研修」「仕掛け」といったものでしょう。他には、後から入社してくる優秀な人材が定着し機能するための「仕組み」も大切ですが、それら以外の人事部門のリソースやエネルギーは、全て残らず「採用」に叩き込むのが、少なくとも投資とリターンの関係だけから見れば、このステージでは合理性が高いだろうと思います。

 

もちろんステージが変化すれば、人事部門の役割、そしてアクションも大きく変化します。業種や個別企業の経営環境にも左右されるでしょうが、獲得できる人材のレベルが安定してきたら、採用への投資も追加的なものは一段落し、場合によって効率面から多少の見直しを行うことになるかもしれません。

 

それに代わって、どう既存人材のスキルアップを図るか、ハイパフォーマーでいてもらるためのマインドセットをどのように持っていくかなど、重点は次第に「採用」から「研修」に移るのがある意味当然だと思います。

 

この理屈から、2017年の新卒採用について、社歴・実力(技術や顧客)は申し分ないが、知名度不足で採用ブランドに劣るといったベンチャーや中堅企業の採用戦略が真っ二つに分かれているのを、実に興味深く思っています。

 

経団連の新卒採用指針に沿って動く大手企業に先んじて、大量の内定辞退者がでることも承知の上で、積極的に優秀なビジネス感度の良い就活生にアプローチしていく企業と、大量の辞退者が出るのは非効率なので、大手企業が概ね内定を出し終わってから本格的な採用を実施しようと考える企業。果たしてどちらが策として正解でしょうか。

 

今後大きな成長を望まない、安定的な経営をしていくのに大きな人材のレベルアップは必要ないと考えるなら、後者の選択もありだろうと私は思います。前者の選択は単年度の人事上のオプションとしてだけ捉えれば、あまり効率的とは言えないからです。そこに割くマンパワーや予算は「研修」や組織の仕組みづくりの充実にあてられるべきかもしれません。

 

しかし、少なくとも成長戦略を描いている企業であれば、前者以外に選択の余地はないと思います。 採用ブランドを構築し、採用できる人材レベルを引き上げる最も確実な方法は、「優秀な人材が優秀な人材を引き寄せる」というポジティブ・フィードバックを創りだすことであるからです。ですから成長のために組織変革が必要と考えるなら、最初の一人目の優秀な人材獲得に大きなリソースを割き、注力する。そこには片々たる単年度の効率論を持ち込まないという判断が必要です。

 

一旦ポジティブ・フィードバックが機能すれば、年々ネズミ算式に優秀な人材を採用できる力がつく。中長期でみればお釣りがある(投資とリターンが十二分に見合う)。これこそが「採用ブランド」構築に他ならないと思います。

 

団塊の世代が卒業した「労働人口急減社会」において、「採用」と「研修」の経済学も、また少しその様相を変化させつつある様な気がしています。

 

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36協定違反企業の行政指導時の企業名公表のインパクト。労使関係のデザインはいつもここから。

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ネットニュースでは、ほぼ毎週何らかの大きな労働問題が報じられます。

 

昔の様にマスメディア中心の時代であれば、他のニュースの陰に隠れてそれほど注目されなかったかもしれない労働問題関連のトピックが、今や瞬時に、しかも自身の職業生活に密接に関係のある話として瞬く間に拡散していきます。

 

最近で言えば、千葉市の棚卸業務代行業でJASDAQ上場企業である「株式会社エイジス」が、違法な長時間労働で労基署から是正勧告される際に企業名を公表される新基準の第一号となった件が、インパクトの大きいトピックといえるでしょう。

 

この新基準、正確には「違法な長時間労働が悪質で」「複数の都道府県に事業所を持つ大企業が」「組織的に月100時間超の残業をさせている」と見られれば、是正勧告の際、社名を公表するというものです。

 

今回の株式会社エイジスの件では、日経を除き、大手新聞各社の記事は「月100時間超」の残業をさせ、事業所要件に該当すれば、自動的に企業名公表がなされるかの様に誤解をおこさせる表現でしたが、「月100時間超」の残業そのものは新基準に言う「違法な長時間労働」とイコールではありません。新基準の「違法な長時間労働」とは「36協定違反の長時労働」を意味します。

 

従って、いわゆる「過労死ライン」を意識することは要請されますし、それを超える長時間労働には大いに問題があるものの、現状では36協定違反さえしていなければ、仮に「複数の都道府県に事業所を持つ大企業が」「組織的に月100時間超の残業をさせて」いても、この企業名公表の対象になることはないというのが、今のところの正確な理解でしょう。

 

ですから、今後も続々と「株式会社エイジス」のような企業が出てくるとは考えにくいのですが、今回の件がある程度のアナウンスメント効果を発揮するのは間違いなさそうです。

 

少なくとも上場企業や、IPOを計画する企業に関しては、労働時間管理の厳格化を推し進めていくことになるでしょう。中小零細は兎も角、まずは既に社会の公器である営利企業と、社会の公器になろうとする営利企業から 変わって行ってもらうことは、とても重要です。

 

企業の成長と労働者の幸福が両立する労使関係のデザインというのは、残業や生産性の問題であれ、ワークライフバランスの問題であれ、常に労働時間管理を「一丁目一番地」として始まります。

 

いわゆる「かとく(過重労働撲滅特別対策班)」が東京労働局と大阪労働局に設置された際も、スケープゴートにされる企業にはお気の毒な部分を感じましたが、上場企業やIPO準備企業に、適切で有益な労働時間管理を率先垂範してもらい、その裾野を広げるには、やはりこうした行政上のアクションにならざるを得ないのだろうと感じています。

 

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